緑内障診療における3次元眼底解析

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 緑内障によって暗点が生じる頃には、神経線維は約3割欠損しています。
グリーンフィルターをかけて眼底を観察すると、
これは黒い抜けた筋として観察されます
(前ページ参照)。
しかし、下記の症例では、視野検査上では
ブエルム領に暗点が生じていながら、
眼底の対応する部分に
神経線維層の欠損が認められません。(乳頭より7時の方向が対応する)

 初回検査時より数ヶ月に
眼底、視野ともに
再検査しましたが、
やはり結果は同様で、
ブエルム暗点は再現されたものの、
神経線維層の欠損
(どちらかというと乳頭より10時の方向がそれらしい)
は確認出来ません。

 このため、頭蓋内疾患の可能性も考えながら
点眼治療を続けていましたが、
一年が経過しても通常の眼底検査では
暗点に対応する部位に
神経線維層の欠損は認められませんでした。

 しかし、3次元眼底カメラで経過を追うと、
視神経乳頭の血管の隙間の領域が沈降していく様子が見て取れます。
(緑色の矢印⇒で示された部分)
  周辺の網膜から来た神経線維は、視神経乳頭の辺縁寄りで、深層を走行すると考えられています。
 このケースでは、深層の神経線維の欠損がグリーンフィルターをかけても二次元写真では認め辛いものの、
3次元では沈降として認められたものと思われます。

 先天性の視神経低形成で、SSOHというものがあります。
視力は良好ながら下方の広範な視野欠損を特徴とし、
眼底には網膜動脈の乳頭起始部の上方偏位や、
上方辺縁の狭小、上方から鼻側の神経線維層の菲薄化などが認められます。
これは進行する疾患ではないので、(緑内障と見誤って)治療する必要はありません。
 下記の症例もこのSSOHと思われ、
(下図の一番左が初回受診時。真ん中が4年後。一番右は視野の結果)
3次元眼底検査で経過を追っていたのですが、上方の辺縁部に沈降が認められます。
 この症例はSSOHと近い範疇にあると考えられている耳側くさび状視野欠損
(緑内障性変化に含まれる)かもしれません。
ただしまだ若年の為に、近視性変化を捕らえているだけかもしれず、慎重に経過を観察する必要があります。

 近年のOCTの広まりによって、HRTの重要性が低下したかの様な
記述が専門誌にも散見される様になりましたが、視神経乳頭の『深さ情報』
に関しては未だOCTでは得られません。(スペクトラリスの後継機では出来るらしい)
 深さの解像度は確かに数μmですが、別の測定点とは基準値を合わせられないので、
3D画像はあくまで参考でしかないのです。
 例えば、ぶどう膜炎などで極度な高眼圧に晒された時に、視神経乳頭下の篩状板は
一時的にたわんでしまう(これは専門の文献にも記載されています)のですが、
これをOCTで観測して経過を追うするは現時点では不可能です。
ましてや立体眼底写真や前置レンズで観測する事など、とてもとても不可能です。
 神経線維層の厚みや、黄斑部の神経節細胞層の厚みを計れる様になった事は
確かに進歩と言えますが、緑内障の診断の基本は視神経乳頭の陥凹の解析であり、
その意味においてHRTは不可欠の装置だと思います。